専門獣医師が語るワンちゃんとの住まい
滑りやすい床や段差には注意 愛犬の高齢化も見越した家づくりを
室内で暮らすワンちゃんは、住環境が原因で足腰に負担がかかることがあるようです。
ワンちゃんが安心して動ける室内環境を整えるには、どんなことに気を付ければようのでしょうか。
整形外科を専門とする獣医師・影山敏昭先生に、お話頂きました。
『滑って転ぶことがきっかけで、ワンちゃんの関節や骨にダメージが』
住まいの中で、ワンちゃんの関節にダメージを与える誘因のひとつが、フローリングなどの滑りやすい床です。滑って転んだことがきっかけで、椎間板ヘルニアを引き起こしたり、腰や関節をおかしくするケースがかなりあります。特に中大型犬は、滑りやすい床では転ぶことが多いので注意が必要になります。
硬い床もワンちゃんの体にダメージを与えます。飼い主に抱かれた状態から床に落ちて骨折する小型犬が多いのですが、その場合、落ちた場所は、ほとんどがコンクリートやフローリングといった硬い床です。硬い床はショックを吸収しないので、骨への衝撃が強くなってしまうのです。
ワンちゃんの関節や骨に与えるダメージは、急激で大きな力によるのもだけでなく、反復される動作によって徐々に起こるものもあります。ソファから硬い床へ繰り返し飛び下りることもそのひとつです。症状がかなりひどくなりワンちゃんが足を引きずるようになって初めて、飼い主は気づきます。
階段の上り下りも注意が必要です。特にミニチュア・ダックスフンドは階段の上り下りが苦手で、足腰にも負担がかかります。滑って落下する危険もありますので、階段は滑らない素材にしておくことが必要です。
『ワンちゃんに良い床材と人に楽な床材その妥協点を見つけましょう』
ワンちゃんの事だけを考えると、床は絨毯が一番。フローリングの上に絨毯を敷くと、ほとんどのワンちゃんがその上で過ごすようになります。ワンちゃんにとっては絨毯の上の方が生活しやすいのでしょう。
しかし、人にとっては掃除がしにくいと、メリット・デメリットが相反するのが難しい問題です。人に楽な生活とワンちゃんに良い生活は合わない、そこをどこまで妥協していくか。私は部屋全体をフローリングにし、ワンちゃんが生活する場所にだけ絨毯を敷く、というのが良いと思っています。まずはワンちゃんとの生活を始め、ワンちゃんがどこに落ち着くのかを見定めること。それからその部分に4畳半から6畳の絨毯を敷くことができます。
ソファの下などよく飛び降りる場所、段差のある場所にも絨毯を敷き、衝撃や滑って転ぶ危険からワンちゃんを守ってあげてください。絨毯は爪が引っかからないようなループ状でなく毛足の短いものが最適です。
『ワンちゃんの高齢期を見据えた住まいづくりを』
これから家を建てるときやリフォームするときに考えておいてもらいたいことは、ワンちゃんの寿命は約15年だということ。ワンちゃんはあっという間に高齢期になります。そのとき、足腰が弱って階段や段差の上り下りができなくなるという問題が起こっています。ワンちゃんの生活場所が2階にあるため、散歩や外での排泄のたびに、介助して階段を上り下りしなければならず、ケアが大変になる飼い主が多くいます。小型犬は抱きかかえればすみますが、30kgもある大型犬となると大変な問題です。また、高齢期では足腰が弱るとともにバランス感覚も落ちます。滑る床では立てなくなり、ワンちゃんは自由に動くことが制限されてしまうのです。
ワンちゃんの居場所やトイレの場所、ワンちゃんの生活場所の床材は、家づくりのときからワンちゃんの高齢期を見据えたうえで十分に考えておきたいものです。生活場所にどうしても越えなければいけない段差があるときは、スロープを取り付けるスペースを取っておくなど、あとになってからでも段差が解消できるような工夫をしておくと良いのではないでしょうか。
動物は、体を動かせなくなるとかなり生活の質を落とさなければならなくなります。動物は動いてこそ動物なのです。私たち人間は、いつも動ける環境を動物のためにつくってあげねばなりません。こういった意味でも、ワンちゃんとの住まいは、ワンちゃんが安心して負担なくきちんと身体を動かせる環境にすることが大切だと考えます。
ワンちゃんの健康な皮膚にも 快適な住環境づくりが大切
皮膚のトラブルは、ワンちゃんの生活に起因していることが多いようです。
その痒みは、ワンちゃんに緊張を強いている住環境によるものかもしれません。
皮膚科を専門とする獣医師・永田正彦先生に、動物行動学的な見地を交え、お話いただきました。
『犬種によって千差万別 それぞれに合った住環境を』
ワンちゃんは犬種によって、適した環境が違います。その犬種がもともと暮らしていた場所、例えば砂漠のような乾燥地、南米の高地、北極のような激寒地などをイメージしてみてください。
家族が暮らす住まいであることを軸にして、ワンちゃんに適した環境にどこまで歩み寄れるか、エアコンや除湿機などでどれだけ調整ができるのか、家族のコンディションも含めて考えてみてください。
皮膚に関連した住まいの問題の一つに、フケと抜け毛があります。新陳代謝による整理現象で、どんなワンちゃんでもフケや抜け毛がありますが、犬種によって多い少ないという違いがあります。世話をする人の性格や都合、さらには経済的な余裕などを考え、処理のしやすい住まいの工夫をしたいものです。
『基本的なワンちゃんの生活習慣を 見直してみましょう』
皮膚に生じるもうひとつの問題が痒みです。痒み自体は、正常な感覚のひとつです。体が汚れていれば、痒いでしょうし、人と同じように掻くこともあると思います。
ワンちゃんの痒みは人と異なり、接触皮膚炎(かぶれ)はほとんどありません。多くが体質や感染症で、時には寄生虫や食物によるアレルギーを認めます。
住環境が発症に影響するアトピー性皮膚炎の対策は、必ずしもアレルゲンを取ればよいというものではありません。最も大切なのは、皮膚の状態が不安定にならないよう、心身ともにバランスのとれた健康な状態を保つことです。それには基本的は生活習慣の整備が役に立ちます。痒みを訴えるワンちゃんの多くが、生活習慣の見直しで緩和されていきます。
『ハウスやトイレの位置、気分転換できる住まいの工夫』
ワンちゃんに心地良い生活習慣の構築として、安息地となるハウスの位置、適切な排泄場所や機会の確保、食生活の充実、無理のない生活リズムなどに注目しています。
住まいで大事にしたいのは、ハウスの位置。従来の番犬は、玄関の脇に狭い小屋を置いて、紐でつながれていましたね。常に緊張を強いることで、すぐに吠える番犬に育てる理にかなった環境だと思います。しかし、今、ワンちゃんに求めているものは違っています。落ち着いたのびのびとした性格のワンちゃんに育てたかったら、そのために必要な環境を提供してあげて下さい。そのワンちゃん本来の習性を知り、それに配慮した場を考えてあげて下さい。
また、トイレの場所も重要です。子犬から自立するとともに、ハウス内の排泄を嫌います。これは排泄物のニオイで敵に自分の避難場所を悟られまいとする本能かもしれません。寝る場所とトイレは離してあげましょう。また、家の中で行う活動の場も考えてあげてください。室内で過ごすワンちゃんにとっては、家の中で充分に気分転換ができるように考えてあげましょう。
ワンちゃんにとって快適な場所づくりには、犬種による行動や性格が参考になります。そのうえで、個々のワンちゃんや家庭に合った環境を柔軟につくっていけば、少しずつ理想的な住まいに近づくでしょう。ワンちゃんに無用な緊張を強いることなくリラックスして過ごせる住環境にすることで、皮膚トラブルも少なくなると思っています。
【愛犬との暮らしをもっと豊かに楽しくするために WON ON ONEより】